地方遠征

ブログを書くのは何年ぶりだろう。
全国的にかどうかは分からないが、中学のときにアメブロが流行ってこぞって皆でブログを更新したりアバターたちを操作していたりした、あのとき以来だろうか。それはつまり何年前の話だから……と青春の一時が何年も前のことだったかを考えて、途中でやめた。悲しくなるだけだ。
これまでは観劇する度にLINEのホームに書き込んでいたが、興味のない人にしてみれば読む時間すら惜しいだろうし、実際にSNSで知り合った観劇仲間くらいからしかコメントはおろかスタンプが届かない。
私と同じ推しのファンのブログを読みながら、どうせなら私もこういう風に匿名性をもった大衆に向けて発信してみようと思い、現在に至る。




突然だが、私は陳内将さんを推してる。
若手俳優集団D2 from D-Boysに所属する、若手俳優さんだ。
彼を応援するようになってまだ二年とファン歴はひよっこだが、彼への愛は熟練されたファンの方々には劣らないとちょっとだけ自負している。
陳内さんが最近では舞台でのご活躍が多いことは、ファンの方々なら周知のことであろう。以前は映像作品へのご出演も多かったが、最近では専ら舞台が多い。
一週間程度のものから、ほんの少しの出番と台詞であったけれど一ヶ月以上もの公演期間を経るものまでと、ご活躍の幅は広い。
今年2015年だけで二月「惡」三月「パスファインダー」四月「龍が如く」六月「東海道四谷怪談」十一「TRUMP」、更に二月には初主演映画「ガチバン」が連続二作品公開され、十月にも某アイドル主演のドラマの初回にゲスト出演、森永さんの甘酒のCMにも登場している。
舞台作品だけでも五作品、映像作品では公開作品数四作品である。
今年は昨年よりもの活躍をと仰っていたので、それを見事達成された形になるだろう。


さて、先にも述べた通りファン歴としてはまだぺーぺーのぺーである私だが、古株の皆様には負けず劣らずと思っている。
というのも、以上に挙げた今年の舞台作品のうち五分の四を観劇するために東京あるいは関西まで足を運んでいるからである。
私は彼の出身地である熊本に住んでいる。と言っても、上天草ではない。一応熊本市内在住だから、きっと彼より幾らかは暮らしやすい、利便的な土地だ。
東京へ観劇に行くときは決まって、空港の駐車場を使っては駐車場代がかかるから乗車予定の飛行機より三時間早く起きてバスを乗り継ぎ空港へ向かう。飛行機に約二時間拘束されてようやく東京に到着する。
空港への往復のバス代、飛行機代、ホテル代。幾ら安いものを探したって、どうしても諭吉が四人は飛んでいく。
勘違いされてしまいそうなので先に言っておくが、それだけの時間とお金をかけて東京へ観劇しにいくことを自慢したいわけではない。ファンなのだからどうしても行かなければならないというわけではないし、私が行きたいと思ったからこれだけの時間とお金をかけて東京へ飛んでいる。
実際、一ヶ月前と急な告知だったため準備が間に合わなかったこともあるが、龍が如くを観劇には行っていない。
先日、今年最後の遠征であるTRUMPの大千秋楽を終え、今年はどれだけ遠征したかを何気なく考えて、かかった費用を軽く計算してゾッとした。そのことがこのブログを書いてみようと思うに至った切っ掛けでもあるが、蛇足になってしまうのでその話は今は無視しよう。


話を戻す。
地方からの遠征というのは大変だ。
これは既に、耳にタコばりにたくさんの方々が嘆いている。
東京に住んでいる方が、遠征がつらいなら東京に引っ越してくればいいと仰っているのを見掛けたことがある。
確かにその通り。極論だが、東京で暮らせば今以上に家賃や光熱費や生活費が増えるだろうが、二日続けての休みをどうにかもぎ取って耳鳴りと窮屈な席に耐えながら飛行機に乗り、安さに負けて予約した安ホテルの固いベッドで眠り、二日間行使し続けた体でまた一週間働く必要はなくなる。公演期間中での仕事の休みを見付けて観劇し、家に帰ってから缶ビールを片手に推しの素晴らしさに浸り、慣れたベッドで愛用の枕で眠り、次の日からまた仕事に励めばいいのだから。
ビバ東京暮らし。私もそんな生活を送りたい。せめて関東で暮らしたい。
しかし、現実はそうもいかないのだ。
仕事を辞めて慣れない東京で再就職なんて考えただけでもドッと疲れそうだし、幼い頃から暮らしてきた地方を離れていきなり人に揉まれて暮らすなんて病みそうだ。頼れる人なんていないなかで、新しい職場で胃をキリキリさせながら、電車の乗り換えのためにホームをうろうろしてようやく家に戻る。
東京に引っ越せばいいじゃないか。随分簡単に言ってくれたものだ。
じゃあお前は推しがイギリスで活躍する海外俳優だったら、海外にイチイチ渡航するのが面倒だからイギリスに引っ越すのか。極論だぞ。そういうことだぞ。クソッタレ。
そう簡単に引っ越しが出来ないから、我々地方民は何時間も早くに起きて、推しに会うのだからと精一杯のお洒落をして、空港へ行くバスのなかでチケットを忘れていないか三回も五回も確認して、飛行機の中で耳の奥を刺すような耳鳴りに耐え、開場時間に間に合うように小走りで駅を駆け抜けていく。
その途中でまたチケットの確認をする。途中で落としてしまっていないか。さっき確認したときにしまい忘れてやいないだろうか。
ここでどこかに落としてしまったら、この交通費が無駄になる。頭のなかにはそれしかない。


また別の方の話をしよう。
関東に住んでいるのに、滅多に観劇のために東京へ来ない方だ。
聞けば、交通費がもったいないらしい。
どれくらいかかるの?と聞いた。関東とは言っても田舎の方だから、きっと諭吉が一人はいなくなるのだろうと思った。
しかし、なんと消えるのは諭吉ではなく野口が五人だと言うのだ。
私は驚いて、あらそうなの、大変ねとしか言えなかった。私が諭吉四人との別れを惜しんでいるその隣で、彼女は野口五人との別れを惜しんでいるのだ。
地方からはるばる東京まで観に行くから凄いファンなのではない。遠方よりもより遠方から来た方が偉いのではない。お金をかければかけただけ誉められることではない。もちろん当たり前のことだ。
観たい方だけがはるばる東京までやってきて、好きなだけお金を落として帰ればいい。ファンなら最低何回観て最低幾ら使わなければならないという決まりなんてないのだから。
けれど、世の中にはもっと観たいけれど仕事と交通費宿泊費の関係で土日のマチソワをフルで観て観劇とマチソワ間の暇潰しで周囲をうろついて、後ろ髪を引かれる思いで最終の飛行機で帰るファンがいるなか、野口五人との離別を惜しみ推しの活躍を脳裏に焼き付けない方がいるのだ。
驚いた。本当に驚いた。
別に彼女に関東に暮らしていてファンなのだから足繁く通えと言うつもりはない。先にも言った通り、ファンに決まりはないのだから観劇しようがしまいが本人の自由だ。東京へ頻繁に通えないのも、やむ得ぬ事情があるのかもしれない。
しかし、私は思ってしまうのだ。
せっかく関東に暮らしているのにもったいない、と。


話が変わるが、今月一日に私の推しである陳内さんと同じグループに所属する山口賢貴さんが、今月二十五日をもって芸能界を引退することを発表された。
昨年の秋ごろから山口さんのご活躍を耳にすることが減っており、もしかしたら……と心配していたが、昨年の同じ時期、実際に辞められたのは山口さんではなく上鶴徹さんというこちらも同じくD2 from D-boysに所属する方だった。
上鶴さんの突然の引退を悲しむ一方、山口さんのお仕事が増えていき彼がこの世界を辞められることはないんだと安心していたところへ、これまた突然の引退発表は予想さえしていなかった、まさしく寝耳に水のことだったから驚いたのをよく覚えている。
私は結局上鶴さんのご活躍を直接観る機会には恵まれず、山口さんのご活躍もアンサンブルでのご出演を一度だけという結果で彼らの卒業を迎えることになってしまった。
そうして、終わりが訪れてから思うのは、あのとき行っていればという後悔の念ばかりである。
彼らを知ってからこれまでで彼らが出演される作品で観たいと思ったものが、少なくとも一つはあったのだ。しかし、そこにかかる手間と費用を考えると尻込みしてしまう。
そして迎えるのは、決まって後悔ばかりなのだ。


くどいようだが、このブログはただ遠征民の苦労を嘆くために書いたものではない。東京都民の地方民が遠征に来て当たり前という姿勢に苦情する、「私大変なんだからもっと労ってよね」なんてことを言うためのものでもない。
遠征が大変なら行かなければいいのだから。推しの活躍を直接見ることを諦めて、行きたかったと観劇された方々のレポを読みながらDVDを待てばいい。
そうしないのは、推しのことを好きだからだ。好きだから劇場まで駆け付け、いつ突然の終わりが訪れてもいいように彼らあるいは彼女らの姿を胸に刻む。
我々地方民は、先述した通り東京まで行くのに酷く苦労する。省いたが当日だけでなくホテルの手配や仕事の休みの交渉など、多大な手間とお金がかかるのだ。そうなれば必然、わざわざ東京まで行くのに推しのためが精一杯となる。
すると、観たいけれどDVDでいいかと思っていた作品が好評で終わってより観たいと思ってもDVDさえ出ないことや、推しと同じグループのメンバーが突然辞めると発表し、彼のご活躍を一度も観ることが出来なかったことを悔やむといったことが多くなる。
後悔しないためには、気になった作品や好きな役者の出演舞台は観に行けばいい。しかし、我々はそうするために東京まで出向くのが容易ではない。だからきっと、今後悔をしても、また後悔をすることを繰り返すのだ。
けれど、東京都民または関東にお住まいの方は、推し以外にも劇場まで駆け付けることが我々より簡単なのである。
どうか後悔しないでほしい。一日の休みと数人の野口との離別で住むのなら、行きたいと思った作品には積極的に行ってほしい。
そういう願いを込めて、この記事を綴った。
あなたが関東に住んでいるということは、我々からしてみたらそれだけで既に奇跡のような、羨望の対象なのであるから。





次回からは最近観た舞台の感想でも書いていこう。
来年は幸いなことに、推しのお仕事がもう二つも発表されている。
このブログも暫くすれば賑やかになるだろうか。