「また逢おうと竜馬は言った」

先日、「また逢おうと竜馬は言った」を観てきました。
先日と言っても神戸のBLACK千秋楽だから、6/19。今は六月も終わり。少し間が空いちゃったのは、実は訳があります。
少し遠回りしながら話していきますが、どうぞお付き合いください。蛇足が多いですが、もちろん観劇した感想も書いていきますよ!



今年の春に熊本で大地震が起こりました。
私は幸いなことに震源地在住ではなかったけれど、古い一軒家だったからガタガタ揺れて。増築した部分は傾いてしまって、壁には穴が開いているし、瓦も落ちたせいで雨が降れば家のなかは水浸し。玄関先には黄色の紙が貼られています。
その以前から今回の神戸公演の観劇は予定していて、チケットはもちろん新幹線の手配もしていました。
同じく被災したある知人がこう言っていました。

「たった数秒で、全財産をなくした」

彼は家が全壊、今はアパートを借りて暮らしています。
私は本当に幸運で、まだ家に住むことができます。しかし、被災直後の当分の纏まった食料、壊れた電化製品、避難中の食費。たくさんのお金を使いました。
被災して一番の被害は住む家がなくなってしまうことや怪我、最悪亡くなってしまうことなんですが、被災すると予定していなかったお金が急に、それもたくさん飛んでいってしまいます。
携帯代など支払いは暫く待ってくれますが、次の月には二ヶ月分纏めてお支払い。学校の支払いは待ってくれませんし、びた一文まけてくれません。とにかくお金がない。
もちろん心にも余裕がないですし、家族の心配もあるので、私は当初今回は見送ろうと思っていました。
しかし、家族や職場の勧めで結局観劇に行くことになりました。


本当はBLACK千秋楽と翌日のWHITE大千秋楽を予定していたのですが、公演一週間前に転職を考えていた企業先からその日に面接をすると電話があり、急遽日曜のBLACKだけ観劇して月曜に朝の新幹線を取り直して帰宅。
一度だけでも観ることができて幸せなのですが、私の大好きな新撰組の土方さんを推しが演じるということで楽しみにしていたので、正直、これで落ちたら許さない💢という気持ちでした。
人はどんどん欲張りになっていくんですね。


そして迎えた公演当日。
これまでにも何度か遠征して観劇した経験があるのに、私はまるで初めて観劇のために大阪に行ったときのようなドキドキを引き連れて、神戸に降り立ちました。
本当にずっと心臓が痛くて、お腹も痛くて、何度もトイレに行きました。もしかしたら初観劇より緊張していたかもしれません。
そうして前説がはじまり、暗転。まず始めに舞台に立つのは竜馬と、竜馬に恋心を寄せるおりょう
恋しあう二人が別れを決めるシーン。


そうして、来た。

岡本だ!


竜馬に憧れる岡本は、ただひたすらに、実直に、自分も憧れの竜馬のようになりたくて、喧嘩をした本郷とケイコを仲直りさせようと奮闘する。
舞台の上を走り回り、声を高くして、汗を流して、顔いっぱいで笑いながら。

岡本演じる陳内将さんがよく仰る、「今を生きる」という言葉があります。
その言葉をお借りするなら、岡本が本当に板の上に生きているんです。あの空間にいなかった方は何のこっちゃと思われるかもしれませんが、本当なんですよ。
笑って、泣いて、悔しがって、苦悩して。ケイコに好きだと言えば振り向いてもらえるかもしれないのに、ケイコ自身の幸せを自分の幸せよりも優先している。なんて直向きで実直な人なんだろう。
そういった主人公はキャラメルさんの十八番なんですが、素敵なキャスティングをしてもらえたことに胸がいっぱいでした。
岡本はキャラメルさん史上過酷な役らしく、陳内さんと一緒に岡本さんを演じた三津谷さんは神戸公演から喉の調子を悪くしていらっしゃったようです。陳内さんのブログでも後日、彼も喉を悪くし、更に体調まで酷く崩していたことを知りました。
それほどまでにつらいはずの役を、笑顔で成し遂げるのです。それはもう、椅子に座り悠々と観劇している私たち観客の心にまで響くほど、彼は一生懸命生きていました。


カーテンコールから、私は涙が止まりませんでした。何でこんなに泣いているのか自分でも分からないほど、ハンカチを口におし当てて、声を殺しながら泣いていました。
それでも一つ理由があるとするなら、私は彼に元気をもらったんです。頑張ろうと思えるほどの力を彼からもらったのです。
使い古された感想ですが、本当にそう思いました。
これほどまでに私に響いたのは、やはり経験したばかりの震災の記憶があったからでしょう。
これまで本当に辛かったです。阪神、東北、関東。様々な大地震を経験したことのある方なら分かるかと思いますが、余震に怯えながら暮らす日々はストレスが溜まっていきます。夜もまともに寝れません。
余震に怯えながら仕事をしなければなりません。食料がないなか、それでもご飯を食べるためにスーパーに何時間と並ばなければなりません。全ては生きるためです。
町中に「がんばろう、熊本!」という紙が貼られています。これ以上何をどう頑張ればいいんだと憤ったことが何度もあります。心身ともに疲れ果てていました。
しかし、板の上には声を枯らしながら、体調を崩しながら、それでも懸命に生きる俳優がいるのです。遠目に少し痩せたようにも見える彼が頑張っていました。
わざわざ言葉にしないまま、彼は頑張っていました。それは、パソコンで印刷された冷たい「がんばろう」の文字より、私に元気を与えてくれました。
翌日には新しい職場の面接です。楽しみにしていた観劇をキャンセルして、朝から熊本に帰りました。
行きは落ちたら許さないとネガティブな感情だったのが、頑張って受かろう!というポジティブなものに変わっていました。
舞台って本当にすごい。ドラマや映画じゃ、きっとこんな風に思うことはなかったでしょう。
板の上で汗を飛ばしながら声を張り上げる人を目の前にしてようやく、彼らのパワーを私たちも受け取ることができるのです。

その日受けた仕事には無事に就くことができました。
実は、昔から憧れていたお仕事なんです。
舞台を観るようになってまず、私は照明に魅せられました。役者たちを照らす、鮮やかな光に魅せられたのです。
その仕事に就きます。舞台に直接携ものではないけど、舞台をきっかけに憧れたお仕事に、舞台でもらった力を糧に挑んでいきます。

今日までは今のお仕事を終わらせて新しいお仕事の準備で、とバタバタしていましたので、今になってようやくブログを。
これからは簡単に土日に観劇に行けなくなりますが、それでも平日に時間をとって行きたいと思います。
このお仕事に就くきっかけになった大切な観劇を、仕事を理由に辞めたくはない。
何がその人の人生に大きく関わり、力を与えてくれるのかは分かりませんね。
そんなブログでした。